元探偵助手、転生先の異世界で令嬢探偵になる。
「今はこれだけで許してもらえるかな?思った通り、貴女には赤い花がよく似合う」
「あ、ありがとうございます」
「次会うときにはきちんと、貴女のためだけに作った花束を用意しておくのでお楽しみに」
魅惑的な笑顔にシエラは思わずうなずいてしまう。ちゃっかり次の約束をされてしまった。求婚は断らなければならないのに。
そう考えてからふと思った。何故、断らなければならないのだろう。結婚したくないから?そう思ったのはどうして?
……どこかに嫁いでしまえば、これまでのように探偵を続けることが難しくなると思ったからだ。だが、彼は結婚したとしてもなお、シエラが探偵をすることに協力すると言っているのだ。
もしや、この話を断る理由はないのではないか。
「シエラ嬢?」
考え込んでいたシエラの髪に、ラドクリフ侯爵がそっと触れた。
その瞬間、ふわりと花のような香りがした。
ポピーの匂いではない。甘く、色香のある薔薇のような香り。
その香りに、何故か少しだけ──嫌悪感のようなものを覚えた。