元探偵助手、転生先の異世界で令嬢探偵になる。
黒瀬の足音に気付いて顔を上げた彼女と目が合う。その瞬間彼女は穏やかな笑みを浮かべた。
「あっ、探偵さん!もうお帰りですか?」
「ああ、貴女は確か……」
肩ぐらいまで伸びた、緩く内巻にした髪。大きな瞳に吊り上がった目尻というお手本のような猫目。黙っているとキツそうな印象だが、話すときは柔らかな笑顔になる。
記憶をたどり、すぐに思い出した。被害者の姪。すなわち加害者夫婦の娘だ。
本人は事件があった日は友人の家に泊まりに行っており、容疑者からは早々に外されていた。それでも事情聴取のため何度か話はしており、素性も調べていた。
近所のいわゆる名門のお嬢様学校を卒業したばかりの18歳。名前は……御園静奈といったはずだ。
「いやあ、うちの親、お金のためなら何でもやりそうだなあとは娘ながらに思ってたんですけど、まさか人殺しなんてしちゃうとは。ほんと、探偵さんが気付いてくれて良かったです。きっと伯父も浮かばれますね」
両親が殺人犯と判明し、警察に連れていかれた直後だとは思えないぐらいに、彼女は明るく人懐っこい笑顔を黒瀬に見せていた。その笑顔にはさすがの黒瀬もたじろいだ。