元探偵助手、転生先の異世界で令嬢探偵になる。
静奈は黒瀬に背を向け、開ききって歪な形になった薔薇の花をそっと撫でた。
その姿は、黒瀬の目に妙に美しく映った。
思えばこのとき、初めて彼女のことを“事件の関係者の一人”から“御園静奈”という一人の人間へと認識し直したのだろう。
そしてその認識が変わったその瞬間には、──きっと既に彼女に惹かれていた。
「御園静奈さん。これからどうするつもりですか?」
「え?えっと……」
純粋に心配になって尋ねると、静奈は再び顔を黒瀬の方へ向け、困ったように苦笑いした。
「そういえばどうしましょう。実は私、高校卒業したら進学せずに御園グループの関連会社で働く予定だったんですよね……もちろん親のコネで。だけどその親が犯罪者じゃあ、さすがにその話も白紙だろうなあ」
「そうなるかもしれませんね」
「わー、困った!探偵さん、未経験資格なし高卒女を雇ってくれる良い就職先知ってたりしませんか?」