元探偵助手、転生先の異世界で令嬢探偵になる。



 もし一度死んだ記憶のある黒瀬の記憶だけだったのなら、静奈のいない世界で生きても仕方がないと、すぐにでも自ら命を絶っていたかもしれない。

 だが、純粋にルシウスとして生きた7年分の記憶は、死ぬことを拒否した。

 体は7年生きたルシウスのものであるが故に、その意思を無視することは不可能。だから何が何でも、その罰は受けなければならなかった。



 ──精神的には辛い選択であったが、「生きていく」と決めた以上、黒瀬蒼也の25年分の記憶を活用しない手はなかった。

 黒瀬の記憶と共に、一度覚えたことを忘れない、そして短時間で論理的考えを導き出すことのできる天才的頭脳も、ルシウスに引き継がれていた。

 特に目立たなかった子どもが突然天才児になったらさすがに怪しまれるため、知識をひけらかすことのないよう気を付け、勉強好きになったふりをして、徐々に賢くなっていった風を装った。

 そうしてルシウスは、あくまで常識的なレベルで「天才的に頭の良い子ども」という地位を確立し、9歳になった頃、偶然後継者にする子どもを探していたクレイトン商会の商会長と出会い、引き取られた。



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