元探偵助手、転生先の異世界で令嬢探偵になる。
そう考えることで、未練がましく静奈を想い続けることを正当化していたのかもしれない。
──その後、年齢よりだいぶ幼く見えるスリの少年を商会に引き入れたり、この世界でずいぶんと世話になった養父が亡くなったり、実に様々なことがあった。
静奈のことを引きずっているということ以外は、それなりに真っ当な日々を過ごしてきた。
ある一冊の本と出会ったのは、亡くなった養父から商会長の座を継ぎ、その新しい環境もだいぶ落ち着いた頃のことだった。
巷で少し話題の大衆向け小説。客と話すときに何度か話題に出たことがあったため、雑談のネタになるかと気まぐれで手に取ってみただけだった。
しかし数ページ読んだだけで、ルシウスは黒瀬の記憶を取り戻した時以来の強い衝撃を受けた。
小説の主人公は、裏で探偵を生業としている貴族令嬢。その主人公の決め台詞が、どれもこれも黒瀬蒼也の口癖だった。
偶然にしてはあまりに一致しすぎている。そう思いながら読み進め、一冊全部読み終わると、ルシウスの目からは一筋の涙が流れた。