元探偵助手、転生先の異世界で令嬢探偵になる。



 恐らくこの喜劇小説を読んで涙を流す人間は、後にも先にもルシウスだけだろう。


 黒瀬の口癖を度々口にする主人公の令嬢は、記憶の中にある御園静奈そのものだった。


 その日からルシウスは、この小説を常に持ち歩くようになった。作者についても調べ、実際に会いに行った。

 その作者は、この小説にはモデルがいるのだと教えてくれた。ルシウスは知らなかったが、一部ではそこそこ有名な、“令嬢探偵”という二つ名を持つ伯爵令嬢なのだそうだ。



 自分が前世の記憶を持ったままに転生している以上、静奈が同じである可能性だってゼロではない。

 天文学的に低い確率であることは承知していた。それでも、もしかしたらと思った。


 シエラ・ダグラスに会ってみたい。

 そう思う一方でなかなか行動に移さなかったのは、期待して違っていた場合、果たして自分は立ち直れるのかという不安があったからだ。


 だがそんなある日、ルシウスが拾った元スリの少年、レオンが偶然シエラと接触した。



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