元探偵助手、転生先の異世界で令嬢探偵になる。
ラドクリフ侯爵は、少しずつ自分のことを知って欲しいと言っていた。
それなら、シエラも「何となく嫌な感じがする」という感覚で拒否したりせず、きちんと向き合わなければ不誠実だ。
父が部屋を出て行った後、シエラは手持ちの中で一番上質な便せんを取り出した。
「そういえば、花束のお礼もちゃんとしてなかったわね」
呟きながら、ポピーの花束が嬉しいということ、そして近いうちにまた会いたいということを順に書き綴っていく。
字の上手さにあまり自信はないが、丁寧に書けば許してもらえるだろう。
シエラは、いつにも増して丁寧に、時間をかけてラドクリフ侯爵への手紙を完成させた。
そのせいか、手首に付けていた薔薇の香水が、ほんのり便せんにも移っていた。
「ふふ、まあちょっと女性らしい感じがして良いかもね」
むしろもっと香りを付けても良いかもしれない。そう思って、手首に付けたのと同じ香水をほんの少し便せんに垂らした。
……その瞬間、突然思い出した。