元探偵助手、転生先の異世界で令嬢探偵になる。
「え……」
額にじわりと汗が浮かぶ。
「いや、まさか、でも……」
ラドクリフ侯爵が付けていた薔薇の香水に不快感を覚えた理由がわかった。
そして、一つの仮説が浮かんだ。
まだ何の証拠もない。だがもしもこの仮説が正しかったとしたら……。
「クリストファー・ラドクリフ侯爵は、私に一目惚れしたから求婚してきたんじゃない。それどころか、政略結婚が目的ですらないわ」
●
溜め込んでいた書類を一通り片付け終わったルシウスは、眉間を押さえながら息を吐いた。
午後からは来客があったはず。そう思って予定を確認しようと立ち上がった時、執務室の扉が開かれた。
「レオン」
「ルシウスさん、ラドクリフ侯爵のこと色々調べてきたよ」
レオンは、ルシウスに頼まれた調査のため、実際にラドクリフ侯爵領まで赴いていた。
実年齢より幼く見えるレオンは、聞き込みをするときに油断されやすい傾向にある。ルシウスが彼に出会い、商会に引き入れたのはその辺りの才能を見込んでのことだった。