元探偵助手、転生先の異世界で令嬢探偵になる。
優しく甘やかだった声が、氷柱のように冷ややかで鋭いものに変わった。
シエラはごくりと息を飲みこむ。
「デマール家というのは大した金もないくせに、マルガリータは誰よりもしつこく薬を欲しがったからね。仕方なく金になりそうな子どもでも許してやったんだ。ま、それだけ中毒性の高い薬を作ることができたとわかって良かったよ」
「薬を作った?じゃあ、彼女が依存していたという薬物の出どころも貴方ということ?」
「おや、それは気づいていなかったのか」
ラドクリフ侯爵は、実に愉快そうに笑う。
綺麗な顔を歪めたその表情こそが彼の本質なのだろう。そう本能的に感じた。
「……私に結婚を申し込んだのは、私がデマール家の闇を暴いたことを知り、監視の必要があると思ったからですね」
「監視?そうだね、まあそんなところだ。……それで?わたしの悪事を知った貴女はどうするつもりかな?」
「もちろん然るべき機関に差し出します」
「まるで全てを知った上でこのまま帰れるとでも思っているような口ぶりだね」
「帰れますよ」
シエラはラドクリフ侯爵を睨みつけたまま、口だけにやりと笑みを浮かべた。