元探偵助手、転生先の異世界で令嬢探偵になる。



「ちょ、ちょっとルシウスさん?」

「……った」

「え?」

「無事で良かった……。また失ってしまうのかと思った……」



 ルシウスの声は、わずかに震えていた。

 シエラは、ルシウスの肩に手を回し、ぎゅっと力を入れる。



「来てくれて嬉しかったです。今日も、……あの日も」



 静奈が、黒瀬のことを恨む男に誘拐されたあの日。

 来たら間違いなく黒瀬に危険が及ぶから、来ないで欲しいと静奈は言った。それでも彼は迷いなく助けに来た。静奈にはそれが、本当はすごく嬉しかった。



「俺は、黒瀬蒼也が嫌いです」



 唐突にルシウスは言った。



「静奈くんを目の前でみすみすと死なせた男です。嫌いに決まっています。……ですが、あの後悔が今日の俺を突き動かしていたのかもしれないと思うと、ほんの小指の先ほどだけ、嫌いではなくなりました」



 シエラを見つめる優しい表情。

 どきりと心臓が高鳴る感じがした。



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