元探偵助手、転生先の異世界で令嬢探偵になる。
「こうやってルシウスさんから名前を呼ばれて、嬉しくて、ちょっとドキドキする感じ、……これは確かに、今私の中にある感情ですね」
シエラの口元に、自然と笑みが浮かんだ。
「ルシウスさん。好きです。大好きです!」
ルシウスは一瞬驚いたように目を見開いたが、やがて柔らかい笑みを浮かべた。
「俺も君のことを愛していますよ、シエラ。やはり君には笑顔が一番似合いますねぇ」
ルシウスは、またゆっくりと歩き出した。
シエラをここまで送り届けた御者は、衛兵たちと同様に捕まり気絶させられていたようで、今は医者に診られているらしい。そのためルシウスは代わりに乗り合い馬車でも捕まえて、シエラを家まで送り届けるつもりなのだろう。
空はもうだいぶ薄暗くなっている。
薬の効き目もとっくに切れているし、そろそろ自分の足で歩けるとは思う。
だが、彼の腕の中があまりにも心地よくて離れ難かったので、そのことは黙っておくことにした。