元探偵助手、転生先の異世界で令嬢探偵になる。



 ──そして、夢を見た。


 黒瀬と静奈がいつもの事務所で、依頼人に持ち込まれた謎について何やら真剣に話し合っていた。二人とも、どこか楽しそうだった。

 その二人の様子を、シエラはルシウスと共に、少し離れた場所から見守っている。そんな夢。


 目を覚ました時、ものすごく胸が温かかった。起きてここまで幸せな気分だったのは初めてかもしれなかった。


 シエラは幸せな気持ちのまま、いつものように侍女に身だしなみを整えられ、部屋を出る。

 するとそこの廊下にルシウスがいた。シエラは彼の顔を見てぎょっとする。



「お、おはようございます。あの、もしかして眠れていませんか?」



 目の下には隈があり、疲れ切った顔をしていたのだ。



「ええ、まあ。一晩かけて君のお父上に交渉していたので」

「交渉?」

「俺をシエラの結婚相手として認めてくれないか、という交渉です」

「えっ⁉」

「……何を驚いているんです。俺は君の身も心も、名実ともに欲しいと思っているんですよ」



 ルシウスはあくび混じりにさらりとそんなことを言う。



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