元探偵助手、転生先の異世界で令嬢探偵になる。
ルシウスはそう言ってシエラに背を向けて歩き出した。
寝不足からか、少しふらついているようにも見える。
シエラは、そんなルシウスに思い切って後ろから抱き着いた。
「なっ……」
「ルシウスさん、ちょっと言いたいことあるので耳貸してください」
「?」
首を傾げながらも、彼は素直にかがんでシエラの身長に合わせた。
そんなルシウスの耳に小さな声でささやく──と見せかけて、シエラは彼の頬に軽くキスをした。
「えっと、これでちょっとは元気がでるかなぁ、なんて」
「……襲いたい」
「はい?」
「寝不足でまともに理性が働かないときにこういうことをしないでください。もし今のが頬ではなく唇にされていたら、問答無用で押し倒してるところでしたよ」
「……ルシウスさん。やっぱり仕事始める前にちゃんと仮眠をとっておいた方が良いと思います。何か、とんでもないこと言ってるので」
シエラが顔を赤くしながらも真剣な口調で言うと、ルシウスは肩をすくめて「そうします」と答えた。