元探偵助手、転生先の異世界で令嬢探偵になる。



 そんなことを言いながらシエラが開いたのは、日記が記入されている最後のページ。



「『好物の菓子を食べていて咳き込んでしまった。若くないのだから気を付けねばなるまい』本当に他愛のない、死ぬ数時間前に書いたとは思えないような日常の出来事。……ですが、これこそが彼の死の原因でした」

「まさか、その菓子に毒が仕込まれていたと?」

「いえ。このお菓子を気に入っていた彼は部屋に常備していたようなので、意図的に毒を仕込むのは難しいかと。問題はそこではなく、お菓子を食べてむせた、というところです」



 シエラはレオンに問いかけた。



「こういうお菓子を食べてむせたとき、普通どうする?」

「え?えっと、お茶を飲むんじゃない?」

「そうね。だから彼も、きっとそうしようとした。でも、小腹が空いて部屋にあるお菓子をつまんだだけなら、お茶を部屋に持ってきていなかった可能性も高いのではないかしら。そんな中で、テーブルの上にコップそっくりの花瓶が置かれていて、そこに水が入っていたら──」

「花瓶?……うーん、緊急事態なら飲んじゃうかもしれないけど」



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