元探偵助手、転生先の異世界で令嬢探偵になる。



 あの暗号を解くにあたり、シエラが日本語を試したのは偶然だ。この世界の人間が作った暗号だと思っている以上、それに行きつかない可能性は高い。

 その問いに、ルシウスはきらきらと効果音が付きそうなぐらい良い笑顔で答えた。


「本当に静奈くんの記憶を持っているのなら解けないはずがありませんよ」



 ずいぶんと無責任な信頼である。

 それでも不思議なことに、彼にそう言われると「それもそうか」という気分になってしまうから不思議だ。



「それにしても……この世界で孤児として生まれ変わり苦労してきた俺に対し、君は優雅に貴族令嬢ですか」

「まああれですよ。前世では黒瀬さんより私の方が徳を積んでたってことですね!」

「徳、ねえ……」



 冗談で言ったつもりだったが、その言葉でルシウスの顔に少し寂しそうな色が差した。



「きっとそれは関係ありませんよ。もしも前世の行いが今に響いているのだとしたら……あの時君を守れなかった俺が、こうして健康体の人間に生まれ変わり、あまつさえ君に再会するなんて幸運が許されるはずありません」



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