元探偵助手、転生先の異世界で令嬢探偵になる。
その言葉で、シエラの脳裏に「あの日」の映像がよみがえる。
恨みのこもった目で黒瀬のことを睨みつける男。きらりと光るナイフの刃。逃げ場のない壁際で、奇声を発しながら黒瀬の方へナイフが向けられ……そして静奈は咄嗟に……。
シエラは顔を歪め、ぐっと声を詰まらせる。そして、感情を抑えた声で言った。
「あれは私が勝手にやったことです。黒瀬さんは何も悪くない」
「そうですね、確かにあれは君が勝手にやったこと。ですが……そもそも俺がいなければ、あの時君はあんな行動をしなかった。二十歳なんて若さで死ぬことはなかったでしょう」
「どうしてそんなことを言うんですか?私は自分がやったことに後悔なんてありません!」
先ほどまで彼と再会できたことがあんなに嬉しかったのに、今度は分厚い雨雲のようなもやもやが胸に広がっていく。
彼に、静奈として生きた人生が否定されているような気分だった。