元探偵助手、転生先の異世界で令嬢探偵になる。
ルシウスはさらさらとペンを走らせて、書類をレオンに返した。
シエラはルシウスの口から出された名前にぴくりと反応する。修正した書類を受け取ったレオンが部屋から出て行ったのを確認してから尋ねた。
「デマール領って、ジャン・デマール男爵の……」
「おや、あそこの男爵様と知り合いですか?」
「え、ええ。というか、実はこの前、ちょうど男爵からの依頼があって、会いに行っていたんです」
シエラは答えながら、先ほどまで見ていた商会の顧客名簿を見せた。
「ここにも名前のある、男爵の妹──マルガリータさんという方が、何者かの手によって殺されたとのことで」
「ほう、殺人事件ですか。……マルガリータさん。彼女は俺も一度会ったことがありますよ。印象だけで言えばまあ、あまり感じが良くはありませんでしたね」
「私も社交界でもあまり良い評判は聞かないし、身近な人たちの話を聞いても実際あまり良い人ではなかったみたいです。何と言うか、絵に描いたような高慢な貴族というか……」
シエラは二日前、デマール領に赴いたときのことを思い出しながら話し始めた。