元探偵助手、転生先の異世界で令嬢探偵になる。



 二日前──。


 呼び出されたデマール男爵領は、馬車で通りを少し移動しただけで異様な雰囲気が漂っているのがわかった。

 出歩く人々は少なく、その人たちも皆どこか疲れた表情をしている。立ち並ぶ店の中はどこも暗く、通り全体が寂れた印象。明るさの象徴とも言える子どもたちの笑い声は一切聞こえてこない。


 それでも、領主である男爵の屋敷は、一般的な貴族のものと遜色ない立派なものだった。



「この度はご足労ありがとうございます、ダグラス嬢」



 シエラを出迎えたジャン・デマール男爵は、不健康なやせ細り方をした四十前の男だった。

 彼とは以前何度か顔を合わせたことがあるが、もう少しふっくらとした体形だったはずだ。歳の離れた妹が殺された……という話は手紙に書かれていたので、恐らくそれによるストレスから痩せてしまったのだろうと当たりを付ける。

 シエラはさりげなく彼のことや部屋の中を観察しながら、使用人が持ってきた紅茶を一口飲んだ。雑味が強く、紅茶本来の香りや味がしない。ずいぶん安物の茶葉が使われているらしかった。


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