あやかし戦記 妖艶な夜に悪夢を
「奴らに捕まって鬼にされたとかいう記憶はないの?」

人から鬼にされた可能性の高いツヤ・シノノメにギルベルトが訊ねていたが、ツヤは「いや、わからない」と首を横に振るだけだった。手がかりゼロでの調査は難航するに決まっている。

「ギルベルトさん、イヅナ・クリアウォーターです」

イヅナが部屋のドアをノックすると、すぐに「入ってきて〜」とギルベルトの声が返ってくる。他の団員はピリついた空気に対し、団長を務めているはずのギルベルトの声は、やけに明るいものだ。

「失礼します」

イヅナがそう言い部屋のドアを開けると、ふわりとハーブティーのいい香りが漂ってくる。

「いい匂いでしょ?ブルースターボタニカルブランドティーだよ」

テーブルに二人分の紅茶とクッキーを用意しながらギルベルトが微笑む。座るように促され、イヅナは「失礼します」と言って柔らかな椅子に腰掛けた。

「アールグレイにドライフルーツやミント、マローなんかが入ってるんだ」
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