・LOVER—いつもあなたの腕の中—
 大きな声で話していたわけではないので思っているほど悪目立ちしたり、注目を浴びていなかったことにホッとする。


「今日撮影した写真って他にはないの?」と気持ちの切り替えをしようとするリュウに、一緒に転送してもらった写真を見せた。


「俺はこっちも捨てがたいな」

「あ、それ私も思った」

「やっぱり?」

「うん」


 ディスプレイに乗せた人差し指で画面をスクロールし写真を一枚一枚確認しては互いの感想を言い合っているなんて、なんだか不思議な気分。さっきまでの揉めごとなど、まるで何も無かったかのようにリュウと私を穏やかで柔らかい空気が包み込んでいるなんて。
 カップを両手でもち珈琲を口に含む。隣りに座っているリュウから「これはどう?」と感想を聞かれる度に、ディスプレイを覗き込む私が居た。
 何故躊躇せず人前でもこんなことが出来ているのかと言えば。「取材が済んで、仕事相手と話している位にしか感じないよ」と何の躊躇いもなく言い切ったリュウの言葉があったからだ。

 お洒落なカフェで真昼間からリュウと顔をつき合わせて話しているなんて。過敏に周りを気にせず、お互いに笑顔で顔を見合わせたりすることが出来るなんて。
 まるで普通の恋人同士みたいで、嬉しい。
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