・LOVER—いつもあなたの腕の中—
 受付のカウンターに寄りかかり晴海ちゃんに声をかけた副社長は、周囲の目も気にせず顔を寄せ晴海ちゃんに耳打ちして笑い合っている。
 そんな副社長の姿を目にした芽衣が独り言のように呟いた。


「ねぇ。ここ数日、副社長の姿をよく目にすると思わない?」

「そういえば、そうかも」


 入社してから数年の間、顔もまともに拝んだ事が無かったはずなのに。言われてみればロビーやらラウンジ等でも、副社長の姿を見かけることが増えた気がする。


「初めて会議で会った時なんて、めちゃくちゃ厳しくて冷たかったのに。ほら、あれ見てよ」


 受付でよく立ち止まっていたり、受付嬢の晴海ちゃんたちに声をかけている様子が目についていたから。社員達と距離を縮めようとしてくれているのかも、と親しみさえ感じるようになっていたけれど。


「満面の笑顔だし」

「確かに」


 それは、ただの勘違いだったのかもしれないと思えてしまう。気持ちが悪いくらいに態度が違うし違和感がある。
 社長達の親睦会の時に秘書さん達に囲まれていた際も、女たらしのような態度など目にしたことは無かったのに。
 今、目の前で繰り広げられているのは……。
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