・LOVER—いつもあなたの腕の中—
 ここ数日、色々な女性との約束を詰め込み過ぎ実際ブッキングしてしまったとか何とか、言い出した副社長に呆れてしまう。


 おいおい! リュウにつられて、私の名を呼んだくせに。今日は名字があやふやって、どういうことよ? 女遊びもいい加減にしないと、副社長という名が泣くよ? キリッとしていた副社長は何処に行っちゃったの?


 不満気に副社長を見つめていた私を見つめ返し、思い出したようにハッとした表情を一瞬浮かべた副社長にジリジリと迫り寄られ。
 気付けばエレベーターの角に追い詰められてしまっていた。


「そっか。リュウの代わりになってほしいなら、素直に言えばいいのに」


 オールバックの髪に手櫛を入れ掻き乱した副社長に釘付けになってしまう。クシャクシャッと乱れた髪から前髪が現れ、眼鏡を外した瞬間。
 目の前には居るはずのない、スーツ姿のリュウが現れたから。不覚にもドキンと心臓が跳ねるのを感じてしまった。


 そんな見た目などに騙されない。この人は副社長であり、リュウじゃない。どんなに二人が似ていても副社長をリュウの代わりになどするわけがない。


「リュウが居なくて寂しいんだろ? 相手になってやるよ」

「やっ……」


 拒否する言葉とは裏腹に、強引に抱き寄せられた私は。副社長の温かさに瞳を閉じてしまった。
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