・LOVER—いつもあなたの腕の中—

　……なんて。裕隆さんの前では強気でいたけれど。

　正体を明かされて以来、隆好は私に隠している事が無くなった安心感からか。自宅マンションは勿論のこと、私のアパートに居る時でさえ常に仕事のことを考えている時間が増えていた。
　それを裏付けるようにH＆T㏇の仕事資料があるか、新しく撮影が始まる映画だかドラマだかの台本が常に置かれている状態で。
　その脇には、趣味の釣り雑誌やらDVD等も散らばっている状態だから。
　どう見ても「私の入る余地無し」って感じだ。
　おまけに台本にかじりついている隆好の姿を前にしてしまうと、仕事の邪魔をしてしまうようで。なんとなく声をかけ辛くて、変に遠慮してしまっている自分がいる。
　裕隆さんの指摘通り。少し寂しく感じている私が、ここには居るのだ。

　考えまいと、気分を変え。同じ空間の中に居て時間を共有していることだけでも、幸せなのだと考え直しキッチンに立つ。お鍋に湯を沸かし、まな板の上で材料をカットし始める。


　今夜は隆好の好きなビーフシチューにしよう。身体も温まるし、隆好の気分も上がるはずだ。