・LOVER—いつもあなたの腕の中—
「あのー。西田リュウさん事務所側からの指名だったんです。少し前に偶然西田さんと私が知り合っていただけ、という理由ですけど」


 決して副社長のワガママで決定したことじゃないんだよ。と訴えてみるも。
 心の中は複雑だ。だってリュウが指名したと言っても、結局はリュウが隆好副社長なのだから。
 もぅ。隆好が面倒なことをするから、説明するのも変な気分だし何かスッキリしないんだよ。


「にしても、ちょっと騒ぎが大きくなり過ぎだよな。まぁ、この仕事が終われば副社長とも顔を合わせなくなるだろうし。それまでの辛抱か」


 深山さんは「あははっ」と高笑いをしたので、合わせるように作り笑いをして見せる。
 そんな私の背後から「仕事が終わっても、用があれば呼び出す」と怒っているような口調で深山さんと私の話に割って入ってきた人物がいた。

 ドキリとし、振り返れば。怒っているいる口調どころか完全に深山さんを敵視している隆好が立っていた。


「あ……」


 隆好の形相に思わず名前を口にしてしまいそうになり、右手で口元を隠す。
 そんな私の動揺に気づいているはずなのに。スーツ姿の隆好は、深山さんへ向けていた冷たい視線を私へと向け変えた。
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