・LOVER—いつもあなたの腕の中—
 裕隆さんが私に本気で惹かれてしまっていたことだけは、隆好にとっても本当に大誤算だったようだ。
 本気で落ち込みながら話している隆好を前に、私は隆好に告げる。


「私が好きなのは、最初から隆好だけだよ?」

「知ってるけど。分かってるけどさぁ……」


「あぁ、もうやだ」とその場にしゃがみ込んだ隆好は「今、社内に流れている噂って何なんだよ。俺、全く知らなかったんだけど!」と子犬のような目で下から見上げられた。


 その瞳はクールな副社長の隆好というより。どちらかというと、素直な西田リュウの方に見えて。
 ううん。普段のように遠慮なく私に甘える隆好に近い、素の状態と言った方がしっくりくる。


「なんで昨日のうちに話してくれなかったんだよ」


 だって隆好は仕事に集中していたし。煩わせたくなかったし。そもそも、こんなに大きな噂になっているなんて私だって朝出勤して初めて体感したんだよ。


 そう言い返したくても「一緒に居たのだから、話そうと思えば何時でも話せただろ?」と正論を言われてしまっては、なにも言えない。
 私が隆好の現状に遠慮したと言ったところで、それは言い訳に過ぎないのだから。
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