・LOVER—いつもあなたの腕の中—
　リュウの挨拶に動揺を隠せない来場客達はざわつき始め。隣りに座っていた芽衣や深山さんから「今の話、本当なの？」と訊ねられた。
　けれど。本当だとも嘘だとも答えられない。私は隆好から直接聞いていた話ではないから。

　確かに、突然の発表に動揺しているように見えていないのかもしれないけれど。それは単に机の中にしまわれていた航空券を、勝手に見つけてしまっていたからであり。決して活動拠点をニューヨークに移すことを知っていたからではない。

　隆好の視線は私を捉えていたけれど。今の私は、もう『西田リュウ』のいちファンとして動揺したり反対したりできなくて。
　ただ黙って隆好を見つめ返すことしか出来ない。

　航空券が片道分しかない理由がこんな形で分かるなんて残酷だけれど。二人きりでいる時に知らされた方が、もっと残酷だったのかもしれない。
　ワガママな私は。きっと取り乱したりその時の感情に任せて、引き留めたりしてしまったかもしれないから。

　隆好の決めた事を受け入れるしかないのだと、こみ上げる気持ちを飲み込む。
　会社は裕隆さんに任せ、俳優としての道を選んだ隆好を遠くから応援することしか出来ない。
　それが、私に残された唯一の選択。
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