・LOVER—いつもあなたの腕の中—
 上映会場の屋上からは街が一望できる。
 冷たい風が頬をかすめ身震いしてしまうのは、寒いから? それとも、これから待ち受ける出来事を考えると怖いから?


 舞台挨拶も終わり退場客に混じり会場を離れようと、芽衣と深山さんと一緒に席を立った私を呼び止めたのはリュウのマネージャーさんだった。

 屋上で待っているように、とリュウからの伝言を伝えてくれたマネージャーさんからは「あなたとお話するのも今日で最後ね。お元気で」と別れの挨拶をされた。


 本当に、ニューヨークへ行ってしまうんだ。


 芽衣と深山さんを見送り会場の屋上で隆好を待つ間。何も考えられずに、ただ屋上から空の色の移り変わりを眺めていた。
 太陽が沈み、薄暗くなった空には一番星が輝いている。

「ハーッ」と両手に息を吹きかけても、やはり冷たくなった指先が温まることはなく。なんだか体の芯から冷えてきている様な気もする。

 身震いしていた身体が背中から温かい空気に包み込まれ。肩をギュッと抱きしめられると同時に首筋に顔を埋められた。

 声をかけられなくても分かる。私が知っている、この温もりは一人だけだ。
 恋しいのは、一人だけ。
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