・LOVER—いつもあなたの腕の中—
 駅の改札をくぐり、タイミングよく降車駅に停まる電車に乗り込む。暖房が少し入っているのか、車内は外よりもほんわかした温かい空気に包まれていた。電車に揺られながら、ドア付近の壁にもたれ腕時計に目を落とす。
 思ったより早く本社に着けそうだし、今日中には家に帰れそうかな。

 社内から眺める景色は、いつもと変わらないけれど。仕事帰りにぼんやりと眺めるには、充分な景色だと思う。
 出勤時は朝陽がビルの間から顔を覗かせ、その眩しさで完全に目が覚める。朝陽に照らされた街が綺麗に見えて、帰宅時は街の景色が変わり夜景が広がるのだ。

 外に目を向けると、同じ目線上で平面に広がる夜景は横長にみえる。ビルと繁華街の照明と住宅地、そして道路を行き交う車のライトは「キラキラして心が躍る」というより「今日も一日お疲れ様」と労われ、癒されているような気になってしまう。

 元彼と別れてから誰かとデートすることも無いため、休日はもっぱらテレビと仲良しだし。数少ない友達に別れたことを報告していないため、飲み会や女子会の誘いも無く。メリハリのない毎日を送り、このまま三十代に突入してしまいそうだと思うと一瞬焦ったりもするけれど。
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