・LOVER—いつもあなたの腕の中—
 まぁ、仕方ないよね。本社と店舗の橋渡し的な仕事も面白くなってきたところだし、メリハリのない毎日を送り過ぎて「このままでもいいかぁ」なんて、呑気に考えている自分がいるくらいだから。

 車内の窓ガラス越しに映った顔は、とてつもなく疲れた顔をしている。このところ忙しくて睡眠時間が取れなかったせいか、目の下にクマが住み着いてる事に気付き、両手で覆う。

 やっぱり若くない。二十代と括られても、二十歳と二十九歳じゃ見た目の違いも多少出てくる年頃。肌の張り具合も身体のたるみも、徐々にだけど老いてる気がするし。


「休日はジムにでも通った方がいいかも」


 本社と店舗と家の移動くらいでは、運動しているなんて言えないよね。しかも最近は後輩に仕事を覚えてもらうという名目で、私の分まで動いてもらっているし。
 こりゃ運動不足どころの話じゃないな、なんて。仕事も手抜きを覚え始めている事に気付いてしまい、軽く自己嫌悪に陥る。


 降車駅に下り立ち、ホームを速足で進み人波をすり抜ける。自動改札を通り、バスターミナルに目を向けたが「ここは少しでも運動でしょ」と喝を入れ、本社に向かい足を踏み出す。


___この選択が、未来を変えることとも知らずに。
< 4 / 253 >

この作品をシェア

pagetop