・LOVER—いつもあなたの腕の中—
 だって副社長自身も気にしていたみたいだし。そんな理由でもなければ、このフロアに顔を出すなんてありえないよね?
 今まで一度も顔を見せたことなど無い人なのだから。


「なんだ、イイとこあるじゃん」


 なんて上から目線で言ってみたりすれば、自然に笑みが漏れてしまうから。もう少し副社長のことを知りたいな、と思った。

 入社してから今日まで、一度も会ったことが無いのが不思議なくらいだし。あの見た目からして、仕事は出来る人だろうと予測できる。
 だから、私が想像していた「遊び呆けているドラ息子」ではないことは確かなのだから。

 考えられることは、社員達の仕事ぶりを自らの目で確かめるために、実は平社員として職場に居たとか? もしくは同業社に入社して社員として働き、潜入調査しているとか?


「なんてね。探偵じゃあるまいし、そんなことないか」


 デスク周りを簡単に片づけデスクライトを消す。全灯している天井の照明スイッチを押すと、職場全体の照明が落ち真っ暗になった。


「今度副社長に会ったら、こっちから挨拶してみよう。会話が少しでも増えれば、もっと話し易い間柄になれるかもしれない」


 しかし、そんな期待が早くも裏切られることなど。
 この時の私は、全く思ってもいなかった。

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