笑顔の続きをまた見せて!
【11-2】



 病院生活について三河さんから説明を受ける。

 毎日取り替えるパジャマは、持ち込んでも借りても構わないということだったけど、電車で持ち帰るのも大変だからと借りることになっていた。それを届けに来てくれていたんだ。

「Sサイズでいいですか? それとも小児科のをお持ちしましょうか?」

「さすがにそれは大丈夫ですよ」

 カーテンを閉めて着替える美穂。もうこんなやり取りも何度もしてきたらしい、ある意味落ち着いている。

「ヒロくん、もう大丈夫だよ」

 声を受けてからカーテンを開けさせてもらうと、リネンのパジャマに着替えた美穂がベッドに座っていて、三河さんが腕に名前や血液型、部屋番号が書いてある認識票をつけているところだった。

「あらっ? 美穂さんってもうご結婚されているんですか?」

 左手の薬指にはめている指輪を見つけた三河さんが驚いている。

「これ、まだ婚約指輪なんですけど、こういうものなら外さなくていいってことなので」

「確かに! これなら大丈夫ですね。考えましたねー」

 夕食の時間、美穂は部屋で食べられる。今日は何も用意をしてきてなかったから、俺は下の外来フロアの食堂で急いで済ませることにした。

「ヒロくん、またお蕎麦とかで簡単に済ませたんでしょ? ちゃんと定食にしなきゃ栄養片寄っちゃうよ?」

「おいおい。ここでまでそれを言う?」

 まぁ、こんなやり取りも慣れた。



 初めて一緒に夜を過ごしてから、そのあとも何度か俺の部屋に泊まりにきた。

 そして、一晩中話をしたり、また俺の冷凍庫におかずを作って。近場でデートを繰り返した。

 美穂に言わせれば、小学校から中学校の時代で彼女の青春は止まってしまっている。それを取り戻したいのだと。


 でも、俺には別の想いを受け取っていた。

 もしかしたら、戻ってこられないかもしれない。美穂のことを忘れたりしないように。

 ようやく見つけられた自分を認めてくれる居場所。離れたくない、忘れてほしくないという悲痛な思いだ。

 口には出さなかったけれど、ずっと一緒にいると手を握ってあげた。


「ヒロくん、お願いしちゃってごめんね」

 パジャマは借りられたけれど、毎日交換する下着と、今日着てきた服の洗濯は俺の役目にしてもらった。

 ご両親が毎日来るのは大変だ。俺なら仕事帰りに少し足を伸ばせばいいだけの話になるから。

 レディース服の洗濯も何度かのお泊まりの間に教えてもらって、今ではお互いに特に意識することなくなっている。

「また明日も来るから」

「うん、予備はあるから無理はしないでね」

 外来診察の時間も終わって、静まり返った待合室を玄関口まで送ってくれた美穂に手を振って、俺は家路へついた。
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