笑顔の続きをまた見せて!
18話 はじめての夜
【18-1】
みんなを驚きの渦に巻き込んだ同窓会の帰り道。
ヒロくんとふたり、手を繋いで駅までの道を歩いた。
一部から冷やかしの声もあったけど、私もヒロくんも気にしない。夫婦なんだもの。別に悪いことをしている訳じゃない。
「みんな驚いてたぁ」
「いいだろう。もっと驚かせるやり方をしても良かったんだけどさ」
「あんまりやりすぎるとヒロくんが悪者になっちゃう。私は今日ので十分だよ」
ステージの上で、ヒロくんは私の闘病のことを話してくれた。
そして、私の手をとって歩いてくれていることも。
私はそれで十分。
明日があるか分からない毎日。
『また明日会おうね』
そんな簡単な約束ですら出来ない日々を一人で生きてきた。
ううん、それは私が時を止めていただけなのかもしれない。
ヒロくんとの再会は、あの当時の親友が準備を終えて迎えに来てくれたんだと思うようにしていた。
これなら私たちの容姿が違っていても、お話として説明することもできる。
そんなことを病室で話していたら、リアルなおとぎ話だよねとみんなで笑ってくれたけど。
この日、私たちはお家に帰ることはしなかった。
最初から、港の見えるホテルに部屋をとっていた。
去年の今日はヒロくんが私の事でみんなに怒ってくれた日。その翌日に私たちは病院で再会した。止まっていた時計を再び動かし始めた記念の日だったから。
二人きりで特別な時間を過ごそうと言ってくれた。
夫婦ふたりなんだからお家でいいよと言ったけど、あまりにも日常過ぎるからと。
夜景を見下ろす部屋、部屋の明かりを消して、私はヒロくんに抱き締められた。
「わがまま言ってごめんな」
「ううん。いいの。いっぱい心配かけちゃった。遅くなってごめんね」
「いいんだ。美穂のことを誰にもとられなかった。それだけで十分だから」
「こんな私、誰もとっていかないよ。他のひとには……、私は……」
そうだよ。他の人じゃ駄目だった。私を見ていてくれた人は、後にも先にも、ただ一人だけだったから。
「ヒロくん、ごめんね。待たせちゃって……」
ヒロくんの腕から一度離れて、今日の衣装をひとつずつ脱いだ。
「お薬が減ったから、もう怪我をしても大丈夫だって」
今月の検査結果、血栓を防ぐ薬を減らしても問題ないとの判断が出た。またひとつ進めることができた。
「妊娠もね、もう大丈夫だって言われたんだよ」
「美穂……」
「ごめんね。ずいぶんお待たせしちゃったよね……」
私たちが婚約を交わしたあの夜、ヒロくんは私の体のことを分かっていてくれて、待ってくれたのは忘れない。
もう大丈夫。だから今日、渡そうと思っていた。
私の初めてを……。
怖くないといったら嘘になるかもしれない。いろんな経験談を聞いても痛かったというものも多かった。
でも、ヒロくんは私じゃなきゃ嫌だと言ってくれた。私のことを一番に考えてくれて。ごめんねと謝る私を包み込んでくれた。
もう大丈夫。
窓辺のカーテンを閉めて、下着だけになってヒロくんの横に滑り込む。
こうやって横に並んでみると、身長としては親子ほど差があるし、今でも見た目からどんな関係かと振り返られてしまうこともある。
でも、私たちはもう正々堂々と手を繋いで歩いていくことができる関係なのだから。
ヒロくんにまた抱き締められて、下着がずり上がって、上半身が全てはだけた。
あの当時、胸元にあったこれまでの手術の跡は今ではほとんど分からない。
最後の手術の時に、形成手術も一緒に行ってくれたから、薄い線が一本だけ残った程度。
これからは意識しなくてもいいんだよと、包帯を取って傷口を見て驚いた私に先生や瑠璃さんが言ってくれた。
ヒロくんは最初から気にすることはしなかったけれど、それでも少しでもきれいな体で彼に渡したかったから。
「美穂……」
「うん、分かってるよ……。優しくしてね?」
「当たり前だ。でも、俺も初めてだぞ?」
それを聞いた瞬間、涙が出た。彼も私のことを初めてと決めていてくれたこと。嘘じゃなかったんだね。
「うん、いいよ。ヒロくんとなら……」
枕元の明かりも消して、私たちは初めて身体をひとつに重ねた。
みんなを驚きの渦に巻き込んだ同窓会の帰り道。
ヒロくんとふたり、手を繋いで駅までの道を歩いた。
一部から冷やかしの声もあったけど、私もヒロくんも気にしない。夫婦なんだもの。別に悪いことをしている訳じゃない。
「みんな驚いてたぁ」
「いいだろう。もっと驚かせるやり方をしても良かったんだけどさ」
「あんまりやりすぎるとヒロくんが悪者になっちゃう。私は今日ので十分だよ」
ステージの上で、ヒロくんは私の闘病のことを話してくれた。
そして、私の手をとって歩いてくれていることも。
私はそれで十分。
明日があるか分からない毎日。
『また明日会おうね』
そんな簡単な約束ですら出来ない日々を一人で生きてきた。
ううん、それは私が時を止めていただけなのかもしれない。
ヒロくんとの再会は、あの当時の親友が準備を終えて迎えに来てくれたんだと思うようにしていた。
これなら私たちの容姿が違っていても、お話として説明することもできる。
そんなことを病室で話していたら、リアルなおとぎ話だよねとみんなで笑ってくれたけど。
この日、私たちはお家に帰ることはしなかった。
最初から、港の見えるホテルに部屋をとっていた。
去年の今日はヒロくんが私の事でみんなに怒ってくれた日。その翌日に私たちは病院で再会した。止まっていた時計を再び動かし始めた記念の日だったから。
二人きりで特別な時間を過ごそうと言ってくれた。
夫婦ふたりなんだからお家でいいよと言ったけど、あまりにも日常過ぎるからと。
夜景を見下ろす部屋、部屋の明かりを消して、私はヒロくんに抱き締められた。
「わがまま言ってごめんな」
「ううん。いいの。いっぱい心配かけちゃった。遅くなってごめんね」
「いいんだ。美穂のことを誰にもとられなかった。それだけで十分だから」
「こんな私、誰もとっていかないよ。他のひとには……、私は……」
そうだよ。他の人じゃ駄目だった。私を見ていてくれた人は、後にも先にも、ただ一人だけだったから。
「ヒロくん、ごめんね。待たせちゃって……」
ヒロくんの腕から一度離れて、今日の衣装をひとつずつ脱いだ。
「お薬が減ったから、もう怪我をしても大丈夫だって」
今月の検査結果、血栓を防ぐ薬を減らしても問題ないとの判断が出た。またひとつ進めることができた。
「妊娠もね、もう大丈夫だって言われたんだよ」
「美穂……」
「ごめんね。ずいぶんお待たせしちゃったよね……」
私たちが婚約を交わしたあの夜、ヒロくんは私の体のことを分かっていてくれて、待ってくれたのは忘れない。
もう大丈夫。だから今日、渡そうと思っていた。
私の初めてを……。
怖くないといったら嘘になるかもしれない。いろんな経験談を聞いても痛かったというものも多かった。
でも、ヒロくんは私じゃなきゃ嫌だと言ってくれた。私のことを一番に考えてくれて。ごめんねと謝る私を包み込んでくれた。
もう大丈夫。
窓辺のカーテンを閉めて、下着だけになってヒロくんの横に滑り込む。
こうやって横に並んでみると、身長としては親子ほど差があるし、今でも見た目からどんな関係かと振り返られてしまうこともある。
でも、私たちはもう正々堂々と手を繋いで歩いていくことができる関係なのだから。
ヒロくんにまた抱き締められて、下着がずり上がって、上半身が全てはだけた。
あの当時、胸元にあったこれまでの手術の跡は今ではほとんど分からない。
最後の手術の時に、形成手術も一緒に行ってくれたから、薄い線が一本だけ残った程度。
これからは意識しなくてもいいんだよと、包帯を取って傷口を見て驚いた私に先生や瑠璃さんが言ってくれた。
ヒロくんは最初から気にすることはしなかったけれど、それでも少しでもきれいな体で彼に渡したかったから。
「美穂……」
「うん、分かってるよ……。優しくしてね?」
「当たり前だ。でも、俺も初めてだぞ?」
それを聞いた瞬間、涙が出た。彼も私のことを初めてと決めていてくれたこと。嘘じゃなかったんだね。
「うん、いいよ。ヒロくんとなら……」
枕元の明かりも消して、私たちは初めて身体をひとつに重ねた。