笑顔の続きをまた見せて!
【2-2】
竹下の大まかな経歴は分かったけれど、肝心なことを聞いていない。
「体はもう大丈夫なんか?」
「微妙……かな。何度も手術とかしたけど、まだ完全じゃない。だから、毎月検査したり、薬も調整しながら次にできる時期を相談しているの」
「そうか……」
「うん。でもね、今度が最後だって予定なの。凄い心臓外科の先生が来てくれて、私の成長ももうそれほどないだろうし、次で終わりにしましょうって言ってくれてる。でも、予約がなかなかとれなくて、まだまだ先かな」
「成長と言ったってなぁ?」
「まぁね……」
自分で言っておきながら竹下も苦笑している。
あの当時でも彼女はクラスの中で背の順に並んだときには前から三番目より前にいた気がする。
「もう背の順に並ぶ事なんて無いし。身長140センチなんて、今どきの小学生にも抜かれちゃうし?」
失礼だと思ってわざと聞かなかったけれど、彼女から言ってくれた。
「そうか、服も大変じゃないか?」
「うん。でも、レディースって小さいのもあるしね。どっちかと言えば苦労するのは下着かなぁ」
自分たちが小学生だった時代と違って、今の子供服のブランドの中には、大人顔負けのデザインのものもあるようで、今日着ている服もそんな一着だという。
「小田くんは、もうお勤めして何年目? 大学まで出たんでしょ?」
「今年で5年目か。まだまだ経験値足りないって怒られてばっかりだけどさ」
「そっかぁ。でも順調そうだね」
竹下はそう笑ってくれたけど、俺は素直に喜ぶことができなかった。
「俺はそうだけど、竹下はどうなんだ?」
「うん……」
言いにくそうな彼女の様子では、それほど順調に事が進んでいるように感じることはできなかった。
「ごめん、言いにくかったら……」
「ううん。ごめんね、逆に気を使わせちゃって。私、高校は支援学校だったんだけど、なかなか体調で通えないことも多くてね。大学も今は厳しい。就職は落ち着いてからにしようって思ってはいるんだけど……」
結局、普段は病院通いと家で家事をしたりあまり外に出ない生活なのだという。
そこまで聞くと、先日の同窓会で竹下の誤った情報が流れた理由がなんとなくわかってきた。
学校から離れ、目立って外出することもできなくなり、目撃されなくなってきたことが理由であんな不確定な情報が伝わることになったのだろう。
「でも、よかった……。また竹下に会えて……嬉しかったよ」
「えっ?」
不思議そうな顔の彼女に、俺は先日の同窓会での話題を話した。
「そっかぁ。そんなことになってたんだね」
正直、本人には面白い話題ではないはずだ。意外なことに、竹下はそれを受け入れてしまっているようだ。
「そこで納得するなよ。怒らないのか?」
「別に……。私、そう言われちゃっても仕方ないような生活だから」
「そうなのか……」
本当なら、そこですぐに反応してあげたかったけれど、なかなかうまい言葉が見つからなかった。
「だってそのとき、私のために怒ってくれたんだよね。ありがとうね」
「なぁ、竹下は遊びに出ることってできるのか?」
本当にこの言葉でよかったのかはわからない。でも、どうしても今回だけで終わらせたくなかった。
「うん、特に今は外出制限とかはかかってないから。あまり激しいことはできないかもしれないけど」
「そうか。それなら、今度遊びに行かないか?」
「なぁにそれ? もしかしてデートのお誘い?」
「ま、まぁそんなところかもしれない」
お互いに顔が赤くなってしまう。でも、竹下は頷いてくれた。
「私はいいよ。でも誰かに怒られたりしない?」
「心配するな……って威張れることじゃないよな」
意味が分かったのか、クスッと笑った竹下。
「うん、行こうよ。日程また調整するから、教えてね」
「竹下……」
「覚えていてくれたお礼かな」
「マジかよ?」
「それ以上のことを教えるかどうかはこれから次第だよ?」
思わずお互いに吹き出してしまう。そう、きっかけは何だって構わないんだから。
「分かった。また連絡するよ。時間ありがとな」
「ううん、久しぶりに話せて私も楽しかった。次の楽しみにしてるからね」
当時とほぼ変わらない後ろ姿を見送って、俺は本気で彼女をもっと知りたいと思うようになっていた。
竹下の大まかな経歴は分かったけれど、肝心なことを聞いていない。
「体はもう大丈夫なんか?」
「微妙……かな。何度も手術とかしたけど、まだ完全じゃない。だから、毎月検査したり、薬も調整しながら次にできる時期を相談しているの」
「そうか……」
「うん。でもね、今度が最後だって予定なの。凄い心臓外科の先生が来てくれて、私の成長ももうそれほどないだろうし、次で終わりにしましょうって言ってくれてる。でも、予約がなかなかとれなくて、まだまだ先かな」
「成長と言ったってなぁ?」
「まぁね……」
自分で言っておきながら竹下も苦笑している。
あの当時でも彼女はクラスの中で背の順に並んだときには前から三番目より前にいた気がする。
「もう背の順に並ぶ事なんて無いし。身長140センチなんて、今どきの小学生にも抜かれちゃうし?」
失礼だと思ってわざと聞かなかったけれど、彼女から言ってくれた。
「そうか、服も大変じゃないか?」
「うん。でも、レディースって小さいのもあるしね。どっちかと言えば苦労するのは下着かなぁ」
自分たちが小学生だった時代と違って、今の子供服のブランドの中には、大人顔負けのデザインのものもあるようで、今日着ている服もそんな一着だという。
「小田くんは、もうお勤めして何年目? 大学まで出たんでしょ?」
「今年で5年目か。まだまだ経験値足りないって怒られてばっかりだけどさ」
「そっかぁ。でも順調そうだね」
竹下はそう笑ってくれたけど、俺は素直に喜ぶことができなかった。
「俺はそうだけど、竹下はどうなんだ?」
「うん……」
言いにくそうな彼女の様子では、それほど順調に事が進んでいるように感じることはできなかった。
「ごめん、言いにくかったら……」
「ううん。ごめんね、逆に気を使わせちゃって。私、高校は支援学校だったんだけど、なかなか体調で通えないことも多くてね。大学も今は厳しい。就職は落ち着いてからにしようって思ってはいるんだけど……」
結局、普段は病院通いと家で家事をしたりあまり外に出ない生活なのだという。
そこまで聞くと、先日の同窓会で竹下の誤った情報が流れた理由がなんとなくわかってきた。
学校から離れ、目立って外出することもできなくなり、目撃されなくなってきたことが理由であんな不確定な情報が伝わることになったのだろう。
「でも、よかった……。また竹下に会えて……嬉しかったよ」
「えっ?」
不思議そうな顔の彼女に、俺は先日の同窓会での話題を話した。
「そっかぁ。そんなことになってたんだね」
正直、本人には面白い話題ではないはずだ。意外なことに、竹下はそれを受け入れてしまっているようだ。
「そこで納得するなよ。怒らないのか?」
「別に……。私、そう言われちゃっても仕方ないような生活だから」
「そうなのか……」
本当なら、そこですぐに反応してあげたかったけれど、なかなかうまい言葉が見つからなかった。
「だってそのとき、私のために怒ってくれたんだよね。ありがとうね」
「なぁ、竹下は遊びに出ることってできるのか?」
本当にこの言葉でよかったのかはわからない。でも、どうしても今回だけで終わらせたくなかった。
「うん、特に今は外出制限とかはかかってないから。あまり激しいことはできないかもしれないけど」
「そうか。それなら、今度遊びに行かないか?」
「なぁにそれ? もしかしてデートのお誘い?」
「ま、まぁそんなところかもしれない」
お互いに顔が赤くなってしまう。でも、竹下は頷いてくれた。
「私はいいよ。でも誰かに怒られたりしない?」
「心配するな……って威張れることじゃないよな」
意味が分かったのか、クスッと笑った竹下。
「うん、行こうよ。日程また調整するから、教えてね」
「竹下……」
「覚えていてくれたお礼かな」
「マジかよ?」
「それ以上のことを教えるかどうかはこれから次第だよ?」
思わずお互いに吹き出してしまう。そう、きっかけは何だって構わないんだから。
「分かった。また連絡するよ。時間ありがとな」
「ううん、久しぶりに話せて私も楽しかった。次の楽しみにしてるからね」
当時とほぼ変わらない後ろ姿を見送って、俺は本気で彼女をもっと知りたいと思うようになっていた。