笑顔の続きをまた見せて!
3話 私だけが交わしていた約束
【3-1】
「どうしたの美穂? 今日はずいぶんご機嫌ね?」
家に帰って、夕ご飯の支度をしているお母さんから声をかけられた。
「そ、そうかな……?」
確かに、今日は小田くんと久しぶりの再会をした。出来事としてはたったそれだけかもしれない。
でも、私にとってそれはもの凄く大きな意味を持っていたと後で分かるようになる。
「今日の病院、混んでいたにしても帰りが遅かったし。何かあったのかなって思ったから」
「そっか、そうだよね。連絡しなくてごめん……」
普段は病院が終わればまっすぐに帰ってくるし。
それが電車を乗り継いでいくような遠い病院なら別だけど、地元のクリニックでの経過観察なら、特段遅くなることもないはず。
変な理由を言って隠していても仕方ないので、私は昔のクラスメイトである小田くんと偶然の再会を果たしたことを話した。
「まぁ、あの小田くん? 美穂もずいぶんお世話になったものね」
さっきの話だと、もう17年。一昔も二昔も前のことだったけれど、お母さんも覚えていてくれたみたい。
「お母さんでも覚えてるの?」
「そりゃぁ覚えてるわよ。あの時の美穂が、学校に行くと言ってきかなかったんだから」
身体にハンディキャップを負っている私は、どうしても学校を休みがちだった。禁止されていた体育だけでなく、遠足などでも一緒に動けずに別行動をしたことも多くて。
今だから口に出せるけれど、校外学習はあまり好きなイベントじゃなかった。
でも4年生の遠足のとき、後ろの方を歩いていた小田くんは、私と養護の先生の所まで戻ってきてくれて、私の荷物を持って一緒に歩いてくれた。
そう、「竹下がんばれ」って言ってくれた。
きっとみんなに後で笑われてしまうかもしれない。
ただでさえ私の荷物には飲み薬や発作の時の強心剤などの小さな医療機器も入っているから、他の人よりも重いはずなのに、それを一言も口に出さなかった。
それまで、小田くんは本当にクラスでも目立たない、どちらかと言えば女子からもいじめの対象となってしまうような男の子というイメージだった。
でも、どれだけの人が気付いていただろう。他の男の子とは決定的に違って、それ以前でも私のような弱い存在を絶対に見下したりしなかった。
普段は口に出すことはないけれど、小田くんだっていろいろ悔しく思ったりすることもあったに違いない。
遠足の時にそんな目立つ行動をすることで、さらに陰口をたたかれてしまうかもしれないのに。
小田くんはそのまま、最後のバスを降りて解散になるときまで一緒についていてくれた。
「ありがとう」
「竹下だって、遠慮しないで言えばいいんだよ。手伝えることは手伝える」
「うん……」
帰りのバスの中で、私は外を見るふりをしながら、涙が止まらなかったのを必死に隠していたことを覚えている。
「どうしたの美穂? 今日はずいぶんご機嫌ね?」
家に帰って、夕ご飯の支度をしているお母さんから声をかけられた。
「そ、そうかな……?」
確かに、今日は小田くんと久しぶりの再会をした。出来事としてはたったそれだけかもしれない。
でも、私にとってそれはもの凄く大きな意味を持っていたと後で分かるようになる。
「今日の病院、混んでいたにしても帰りが遅かったし。何かあったのかなって思ったから」
「そっか、そうだよね。連絡しなくてごめん……」
普段は病院が終わればまっすぐに帰ってくるし。
それが電車を乗り継いでいくような遠い病院なら別だけど、地元のクリニックでの経過観察なら、特段遅くなることもないはず。
変な理由を言って隠していても仕方ないので、私は昔のクラスメイトである小田くんと偶然の再会を果たしたことを話した。
「まぁ、あの小田くん? 美穂もずいぶんお世話になったものね」
さっきの話だと、もう17年。一昔も二昔も前のことだったけれど、お母さんも覚えていてくれたみたい。
「お母さんでも覚えてるの?」
「そりゃぁ覚えてるわよ。あの時の美穂が、学校に行くと言ってきかなかったんだから」
身体にハンディキャップを負っている私は、どうしても学校を休みがちだった。禁止されていた体育だけでなく、遠足などでも一緒に動けずに別行動をしたことも多くて。
今だから口に出せるけれど、校外学習はあまり好きなイベントじゃなかった。
でも4年生の遠足のとき、後ろの方を歩いていた小田くんは、私と養護の先生の所まで戻ってきてくれて、私の荷物を持って一緒に歩いてくれた。
そう、「竹下がんばれ」って言ってくれた。
きっとみんなに後で笑われてしまうかもしれない。
ただでさえ私の荷物には飲み薬や発作の時の強心剤などの小さな医療機器も入っているから、他の人よりも重いはずなのに、それを一言も口に出さなかった。
それまで、小田くんは本当にクラスでも目立たない、どちらかと言えば女子からもいじめの対象となってしまうような男の子というイメージだった。
でも、どれだけの人が気付いていただろう。他の男の子とは決定的に違って、それ以前でも私のような弱い存在を絶対に見下したりしなかった。
普段は口に出すことはないけれど、小田くんだっていろいろ悔しく思ったりすることもあったに違いない。
遠足の時にそんな目立つ行動をすることで、さらに陰口をたたかれてしまうかもしれないのに。
小田くんはそのまま、最後のバスを降りて解散になるときまで一緒についていてくれた。
「ありがとう」
「竹下だって、遠慮しないで言えばいいんだよ。手伝えることは手伝える」
「うん……」
帰りのバスの中で、私は外を見るふりをしながら、涙が止まらなかったのを必死に隠していたことを覚えている。