笑顔の続きをまた見せて!
【3-2】
その校外学習のあと驚いたことがあった。そのあとの席替えで、私の席の隣に小田くんを先生は指定してきた。
いつも、私の席は最後まで決まらないことが多かった。どうしても休みがちであることで、隣の席の人には負担をかけてしまいがち。
高学年になっても背が低かったから、最後の調整で決まることが多い。どちらかと言えば隣になる子としてはクジ運が悪かったというような感じだ。
それなのに、担任の先生は、私と小田くんを一緒にして指定してきた。小田くんは背が高いから一番廊下側にして、私を内側にすれば前の席でも迷惑はかからない。
他のクラスメイトの反応としては、私と同じようになかなか決まらない彼を一緒にしたことで、ホッとしたような空気があったのは否定できない。
でも、彼はそんなことを微塵も感じさせなかった。
「気を使わせてごめんな」
「ううん、私だってきっと迷惑かけちゃうから」
実際に始まってみると、そんな先生の選択が間違っていなかったことを感じた。
これまでのように隣に遠慮する必要もない。移動教室の授業も変わらない。いつの間にか、体育の時間では彼の姿を目で追ってしまう私がいた。
体調も安定しなくて、よく休んだりけれど、彼は嫌な顔ひとつせずプリントを届けてくれたし、その日の出来事などもたくさん教えてくれた。
だから、答えを書き込んだプリントを逆に朝の登校時にお願いすることもあった。
あの当時、まだ携帯電話なんてものもなくて、連絡はおうちの電話。それもコードレスもなかったから、ついつい長電話して親から怒られていたっけ。
クラスの中で、決して出来る方じゃなかった私たちだけど、お互いの存在が安心感につながっていた。
それまでの学校に行きにくいという気持ちはいつの間にか消えていて、あの並んだ二つの机というすごく小さなスペースだけど、私は学校の中で安心していられる場所を見つけていた。
でも、そんな幸せな時間は長く続かなくて……。
一度検査をしてみると、やはり静養が必要なほど悪化してしまった。手術も受けなければならないと。
最初は、あのクラスの中に在籍したままでの入院。
病室にみんなが千羽鶴を作って持ってきてくれた。小田くんが覚えているのはそのときのことだ。
私の希望としては、またあそこに戻りたいと思っていた。
学期が変わって教えてもらったのは、小田くんと私の机は一緒に組のまま動かしてくれたという。
それも彼が先生にそれをお願いしたと聞いて驚いた。
待っていてくれている。本当にそれが嬉しくて。
許された一時退院。
でもそれはこれからのための準備、学校にある物を整理するための時間だと。
分かっていたけれど、本当に大切で嬉しい時間だった。
「また元気になって戻ってきてよね」
「うん、ありがとう。頑張ってくるよ」
一番最後に言葉を交わしたのはやっぱり小田くんだった。
泣いてしまいそうなのをぐっとこらえた。だって、帰ってこられるかは分からない。もしかしたらこれが最後になるかもしれないって。
4年生だけど気がついていた。これが私の初恋なんだってこと。
だから他の人とは違う。
……最後にしたくない。
離ればなれになるくらいなら、もっと限界になるまで一緒にいたかった。
『美穂、元気になって小田くんに会いに行くことを目標にすれば?』
お母さんはあの当時から分かっていてくれた。
だから最後の登校日、誰にも見られないように指切りをした。
『また遊んでね』
『もちろん』
それが私があの日残してきた、たったひとつだけの約束だったから。
その校外学習のあと驚いたことがあった。そのあとの席替えで、私の席の隣に小田くんを先生は指定してきた。
いつも、私の席は最後まで決まらないことが多かった。どうしても休みがちであることで、隣の席の人には負担をかけてしまいがち。
高学年になっても背が低かったから、最後の調整で決まることが多い。どちらかと言えば隣になる子としてはクジ運が悪かったというような感じだ。
それなのに、担任の先生は、私と小田くんを一緒にして指定してきた。小田くんは背が高いから一番廊下側にして、私を内側にすれば前の席でも迷惑はかからない。
他のクラスメイトの反応としては、私と同じようになかなか決まらない彼を一緒にしたことで、ホッとしたような空気があったのは否定できない。
でも、彼はそんなことを微塵も感じさせなかった。
「気を使わせてごめんな」
「ううん、私だってきっと迷惑かけちゃうから」
実際に始まってみると、そんな先生の選択が間違っていなかったことを感じた。
これまでのように隣に遠慮する必要もない。移動教室の授業も変わらない。いつの間にか、体育の時間では彼の姿を目で追ってしまう私がいた。
体調も安定しなくて、よく休んだりけれど、彼は嫌な顔ひとつせずプリントを届けてくれたし、その日の出来事などもたくさん教えてくれた。
だから、答えを書き込んだプリントを逆に朝の登校時にお願いすることもあった。
あの当時、まだ携帯電話なんてものもなくて、連絡はおうちの電話。それもコードレスもなかったから、ついつい長電話して親から怒られていたっけ。
クラスの中で、決して出来る方じゃなかった私たちだけど、お互いの存在が安心感につながっていた。
それまでの学校に行きにくいという気持ちはいつの間にか消えていて、あの並んだ二つの机というすごく小さなスペースだけど、私は学校の中で安心していられる場所を見つけていた。
でも、そんな幸せな時間は長く続かなくて……。
一度検査をしてみると、やはり静養が必要なほど悪化してしまった。手術も受けなければならないと。
最初は、あのクラスの中に在籍したままでの入院。
病室にみんなが千羽鶴を作って持ってきてくれた。小田くんが覚えているのはそのときのことだ。
私の希望としては、またあそこに戻りたいと思っていた。
学期が変わって教えてもらったのは、小田くんと私の机は一緒に組のまま動かしてくれたという。
それも彼が先生にそれをお願いしたと聞いて驚いた。
待っていてくれている。本当にそれが嬉しくて。
許された一時退院。
でもそれはこれからのための準備、学校にある物を整理するための時間だと。
分かっていたけれど、本当に大切で嬉しい時間だった。
「また元気になって戻ってきてよね」
「うん、ありがとう。頑張ってくるよ」
一番最後に言葉を交わしたのはやっぱり小田くんだった。
泣いてしまいそうなのをぐっとこらえた。だって、帰ってこられるかは分からない。もしかしたらこれが最後になるかもしれないって。
4年生だけど気がついていた。これが私の初恋なんだってこと。
だから他の人とは違う。
……最後にしたくない。
離ればなれになるくらいなら、もっと限界になるまで一緒にいたかった。
『美穂、元気になって小田くんに会いに行くことを目標にすれば?』
お母さんはあの当時から分かっていてくれた。
だから最後の登校日、誰にも見られないように指切りをした。
『また遊んでね』
『もちろん』
それが私があの日残してきた、たったひとつだけの約束だったから。