甘い夜の見返りは〜あなたの愛に溺れゆく
「もしかして、この間言ってた相手って…」
私は何も言わず、黙って頷いた。
「そう、彼なんだ、結羽の旦那さんになる人」
「父が勝手に考えてることで、私は何とも…」
「ふーん、そうなんだ」
湊さんは怒ったような声で、冷たい目で私を見つめた。
「妬けるね」
湊さんは、唇が触れるか触れないかの寸前まで顔を近づけて、
「もうそろそろ行かないと。結羽、どうして欲しい?」
この間はお酒の勢いもあったし、見知らぬ人だったから。
でも、今は立場の違う人。
ダメだと分かっていても、私は胸が高まり、唇が触れることに、期待をしてしまっていた。
言葉に出来ず、気持ちの葛藤に目が潤む。
「結羽は素直だね」
唇が重なり、抱きしめられた。
「結羽とは運命を感じる。楽しみが増えて嬉しいよ」
そう言って、頬にキスをして部屋を出て行った。
「どうしよう…」
私は、腰がくだけるように、その場に座りこんでしまった。
それからしばらく呆然としてたけど、誰もいないことを確認して、席に戻った。
「集中しないと」
これから、平常心を保って仕事ができるか、自信がないよぉ。

役員や部長達が会議室から出て来た時、会議室から木島さんに、声を掛けられた。
「佐々倉さん、社長が会議室に来て欲しいって」
私が会議室に行くと、そこにはお父さんと、そして湊さんが座っていた。
「ご紹介します。私の娘で、管理部に所属してます、結羽です」
「初めまして、これからお世話になります、西条湊です」
「さ、佐々倉結羽です。宜しくお願いします」
西条さんの微笑みを、私は直視出来なかった。
< 12 / 65 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop