甘い夜の見返りは〜あなたの愛に溺れゆく
「み、湊さん!」
「見えないように、隠さないといけないね」
そういいながら、インナーを上に引っ張った。
「今後、俺の前以外では、こんな服は禁止だから」
微笑みながら、私の手を握り、立ち上がらせた。
部屋を出て、エレベータの前まで、送ってくれた時、耳元で、
「この続きは、また今度」
いたずらに微笑み、手を振っている。
エレベータのドアが閉まり、動き出してから、私は壁に寄りかかった。
こんなに格差のある人に、これ以上近づくと、離れる時に辛い思いをするのは分かっている。
なのに…
頭では分かっていても、私は湊さんの言葉には逆らえない。
あの夜、刻まれたのは記憶だけでなく、本能で受け入れている。
シンデレラである時間が残りわずかでもいい。
湊さんに溺れたい。

月初には役員会があり、そのことで管理部だけの打ち合わせがあった。
「来週、西条さんが訪問される時に、西条社長も一緒に訪問されることになっています。デスク周りを綺麗にして下さいね」
社長と言うことは、湊さんのお父さんだ。
湊さんのお嫁さんになれば、お父さんになるのか…
なんて、夢みたいな話、想像しても仕方ないか。
佐々倉フーズのために頑張らないと。
「佐々倉さん、ちょっといい?」
木島さんに呼ばれて、席に向かった。
「西条社長と西条さんと、今後の事業について会議があるから、そこに参加して欲しいんだ」
「えっ?私もですか?」
「今後のこと考えて、参加した方がいいと思うんだ。議事録は僕が作るから」
「…はい」
想像するだけで、緊張感が高まった。

当日は、社長と湊さんが来社して、秘書の高山さん、野木さんも同行していた。
「私の父が、仕事に行き詰まった時は、先代の食堂に行って、とてもお世話になったらしく、その言葉がずっと頭に残ってましてね。いつか一緒に、仕事が出来ればと思っていて、今回声をかけました」
社長の言葉に、西条HDみたいな大きな会社が、何故、うちに声をかけてくれたか、ようやく分かった。
会議ではお父さんが、佐々倉フーズの今までの沿革を詳細に話し、今後の展開に対する考えや、従業員に対する思いを、西条社長に話をしていた。
< 17 / 65 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop