甘い夜の見返りは〜あなたの愛に溺れゆく
「結羽の帰りを待ってたよ。俺が電話している間、ずっと木島さんと一緒に居たんだね」
「はい、お父さんが倒れたって聞いて、一緒に病院に」
「で、社長のご容態は?」
「軽い脳貧血で、大事には至りませんでした。心配無いそうです」
「そう、それなら大丈夫だね」
そして腕を引っ張られ、抱きしめられた。
いつもより、背中に回った手が力強い。
「結羽が困った時に、直ぐ傍にいるのは木島さんなんだな」
「それは」
「ただでさえ、電話が繋がらなくて不安だったのに、木島さんの声を聞いた時は、初めての感情が湧いてきた。気が付いたら車に乗ってたよ」
「湊さん…」
「確かめたいことがあるんだ。一緒に来て」
動き出した車の中で、湊さんはずっと黙ったままだった。
車が走る音だけが耳に入り、沈黙が続いたまま、車が止まった。
あれっ?ここって…
「結羽と、初めて出逢ったホテルだよ」
湊さんに手を引かれ、エレベータに乗ると、着いたのは、初めて2人で過ごした部屋だった。
湊さんは、ベッドに座ると私の手を引き、横に座らせた。
「あの日、結羽はお酒を飲んで酔ってたよね。俺は、酔ってなかったけど」
「そうですね…酔ってました」
「再開した時、言ったよね。お酒の勢いであんなお願いをしたって」
言った…
それは事実だから。
「結羽を見て思ったよ。お酒の勢いが無ければ、結羽はあんなこと言わない」
見つめられる瞳は、寂しそうだった。
「そうだよね」
「…はい」
「今日は、酔ってないよね」
「そう、ですね」
「あの日の言葉、もう言えない?」
あの日は、やけになってたし、お酒の勢いがあったから。
「言えないのは、木島さんに悪いから」
そうじゃない。私のためなの。
「それなら俺、嫉妬する。それとも、しつこくて嫌になった?」
違う。
もう1度愛されると、私はきっと…
頬を撫で、湊さんは寂しそうに微笑みながら、
「そっか…意地悪してごめん、わかったよ。帰ろうか」
ベッドから湊さんが立ち上がった。
これ以上深入りすると、もう止まらない。
でも…
自分の気持ちを誤魔化せない。
あの日、湊さんを刻んだ心と体は、湊さんを求めている。
私は、立ち上がった湊さんの手を握り、顔が赤くなるのが分かるくらい、恥ずかしいけど、思いを言葉にした。
「もう1度、ぎゅっとして下さい」
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