甘い夜の見返りは〜あなたの愛に溺れゆく
「あのー、お話って父が言った件でしょうか」
「もっと早くに言うつもりだったんだけどね。実は…」
顔を赤らめた木島さんは、真っ直ぐ私を見て、真剣な顔で話をし始めた。

話をし始めて、1時間が過ぎた。
「そろそろ帰ろうか」
木島さんがお会計をして、2人は店を後にした。
「ご馳走様でした。今日の話ですが…」
「社長には僕から話すよ。じゃあ、また月曜日に」
そう言って木島さんは帰って行き、私はその背中を見送った。
そうだ。湊さんに電話しないと。
「湊さん、今から帰ります。遅くなってすみません」
「今どこ?」
「会社の近くだったので、駅に向かってます」
「じゃあ、ロータリーに来て。車で待ってるから」
ロータリーに行くと、湊さんの車を見つけた。
窓から覗くと、ドアが開き、
「どうぞ」
と言って、私を見ずに前を向いたままの湊さんは、いつもと違う空気を醸し出していた。
「楽しかった?」
「あの、実は…」
「今はいいよ。後で聞く」
車に乗ってからも、ずっと私と目を合わせない。
湊さんが運転する車で連れて行かれたところは、タワーマンションだった。
「こっち」
コンシェルジュがいる、まるでホテルのようなマンションに入り、私は湊さんに、ただ付いて行った。
「入って」
部屋に入ると、壁はベージュに近い白色で、ブラウン系の家具が揃った、広々としたリビングだった。
窓には夜景が広がっていて、あのホテルの部屋のように素敵だ。
「座って待ってて」
リビングのソファに座って待っていると、湊さんはコーヒーが入ったカップをテーブルに置き、そのまま横に座った。
きちんと話さないと。
「あの…お父さんが木島さんとの縁談を進めようと、後継ぎの話をして」
「それで、結婚しようって告白された?」
湊さんの押し殺した声と、一瞬、私に向けた冷たい眼差し。
背筋が凍りつくくらい、怖い。
「あの…そうじゃないです」
「まずは付き合ってとか?」
目を合わせない、初めて見る湊さん。
「ち、違います!」
涙が溢れそうなのを我慢して、話を続けた。
「木島さんから大切な話があるって、出張の時にも言われたんですけど、その時は断ったから」
「それで?」
湊さんは私を見ず、コーヒーカップを眺めていた。
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