甘い夜の見返りは〜あなたの愛に溺れゆく
「いいんだ。仕事を忘れられる、この時間が幸せなんだ」
私もです。
そう思いながら、一緒に片付けをした。
「残った仕事してるから、結羽はゆっくりしてて。今日中に終わらせて、明日は久々に、ゆっくり2人で過ごそう」
湊さんはパソコンを開いて、テーブルで仕事をし始めて、私はソファで本を読んでいた。
2人でゆっくりかぁ。
久々の休みに、ゆっくり過ごせるなら、買い物したいなぁ。
服はどれ着て行こう。
服?あれっ?
そうだ!自宅の玄関に置きっぱなしだ!
外出用の服を、何着か持って来ようと、大きめのバックに入替えて、そのまま忘れて来てしまった。
「あのー、湊さん…」
「ん?どうしたの?」
パソコンを見たままで、返事が返ってきた。
「明日、出掛ける予定ですか?」
「そうだねぇ。やっと取れた休みだから、映画にも行きたいし、買い物にも行きたいな」
パソコンを見ながら淡々と話すも、笑みをこぼしていた。
「実は…こっちに何着か服を持って来ようと思ってたのに、忘れて来ました」
湊さんは真顔で、しばらくパソコンを操作していた。
手が止まったと思ったら、私を見て
「もう面倒だな」
「えっ?」
「行ったり来たりが面倒だよ」
確かに、行き来する度に車を出してくれるから、仕事する時間も少なくなる。
でも、はっきり面倒だと言われると、涙が溢れて来た。
「あっ、ごめん、勘違いしないで」
湊さんは私の横に座って抱き寄せて、頭を撫でた。
「結羽との時間を、大切にしたいんだ」
そして私の体を離し、真剣な眼差しで、
「ねぇ結羽。一緒に住まない?」
その言葉を聞いて、更に涙が溢れ出した。
「う、うれしいです」
湊さんと一緒に住めるなんて、嬉しくてそれ以上の言葉が出ない。
「さすがに、佐々倉社長に黙って、大切な結羽と一緒に住むことは出来ないよなぁ」
しばらく黙っていた湊さんは、
「月曜日、佐々倉社長と会える?」
「スケジュール確認しますね」
共有カレンダーには、何も予定が入って無かった。
「大丈夫だと思います」
「そっかぁ。じゃあ月曜日会って、話をするよ。いいね、結羽」
「はい」
今まで男性と付き合ったこともない娘が、連れて来た初めての彼氏が、湊さんだったらお父さん、どんな顔するんだろう…
淡々と仕事をし始めた湊さんとは正反対 に、私は本の字も頭に入ってこないくらい、不安だった。
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