甘い夜の見返りは〜あなたの愛に溺れゆく
「高山くんは、小さい頃から語学の勉強をしているし、海外留学もしている」
きっと、今も努力しているのだろう。
「他にマナーや作法が身についてるのは勿論、文化や芸術的なこと、日本の伝統や世界の歴史、更には経営や時事問題、様々なことが会話の中に入ってくる。佐々倉さんは、それに対応できるのかね?」
「あっ、いえ…」
「決して、君自信や育ちを非難しているわけではない。ただ、そういうことが求められる。湊は、将来、西条HDを背負っていくんだ。それは、従業員の人生も背負うんだよ。ただ、愛してるからと結婚出来る事ではないんだよ」
「いい加減にしろよ!俺の愛する人を侮辱するなら、俺は社長にならない。孝に譲るよ」
「何馬鹿な事言ってるんだ!1人の女性のために、お前は西条を潰す気か?」
「親父は、幸せだったのか?愛した人を捨ててまで、母さんと結婚して。その母さんは結局、出て行ったじゃないか」
「何を言ってるか分からないが、お前はもっと自覚しろ」
目の前で繰り広げられる状況を見て、自分の愚かさに打ちのめされた。
ただ、好きだけでは乗り越えられない壁は、鉄壁で、壊すことも乗り越えることも出来ないと察した。
湊さんのために、身を引こう…
それに…
2人のことで何かあれば、お父さんは、私も会社も自分が守るって言ってた。
私の事で、佐々倉フーズが、西条HDに手を引かれたら、お父さんにも迷惑かけてしまう。
「社長、分かりました。湊さんとはお別れします。ただ、佐々倉フーズのことは、引き続き宜しくお願いします」
私は、涙が溢れ出てくるのを隠すように急いで席を立ち、部屋を出て行こうとドアを開けた。
「結羽、何言ってるの?」
湊さんが追いかけて、手を掴んだのと同時に、ドアを開けると、野木さんが立っていた。
「野木さん…」
「佐々倉さん、どうしたの?」
「野木さん、すみません。親父に結羽とのこと反対されていて。俺は親父と話をするので、結羽をお願い出来ますか?」
「分かりました。佐々倉さん、こちらへ」
私は野木さんに肩を抱かれ、ドアの外に出ると、足に力が入らないくらいショックで、崩れるようにしゃがみ込んだ。
「私、馬鹿ですよね。分かっていても、湊さんを愛するあまりに自分のことしか考えていませんでした。湊さんの抱えることの大きさと、それを支える力が、私に無いことも、分かってた。それでも…」
涙が溢れて、言葉にならなかった。
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