甘い夜の見返りは〜あなたの愛に溺れゆく
西条HDはというと…
高山さんが辞めてから、社長秘書として、野木さんが仕事をこなしている。
「野木さん、凄いですね!」
「まぁ、何とかね。佐々倉さんには湊さんのこと任せてしまって。大丈夫?」
「はい。語学だけはどうしても対応出来ないので、海外管理課の方にお任せしていますし、湊さんや孝さんにも手伝って貰ってます」
「そう、それなら良かった」
野木さんが孝さんに、私を助けてあげてと言ってくれたみたいで、孝さんは、よく声を掛けてくれている。

その時、孝さんが息せき切らして走って来た。
「さ、小百合さん!大変です!」
会社では野木さんと呼んでるのに、小百合さんと呼んでしまうほど、よっぽど焦っているんだ。
「どうしたの?」
「これ、見て下さい!」
そこに載っていた雑誌には、プロジェクトを本格的に起ち上げる予定だった、ホテル経営の企画の類似記事が書かれていた。
それも、それを手がける会社の名前は、ライバル会社の「城重(しろしげ)グループ」だ。
「どうしてうちの情報が漏れてるの…」
孝さんが直ぐにネットで、検索し始めた。
「これっ、ちょっと見て下さい!」
それは、地元ニュースとして取り上げている動画だ。
「ここに一瞬だけ写る、紺のスーツの女性を見て下さい」
拡大すると、そこに写っていたのは、高山さんだった。
「まさか…」
「直ぐに専務のところに行きましょう」
孝さんは湊さんに電話して、直ぐに3人で役員室に向かった。
湊さんに報告し、湊さんは緊急役員会を開くよう、指示した。
「やられたな…」
湊さんは今まで見たことのない、怒りを含んだ険しい顔をして、天を仰いでいた。

役員会は夜まで続き、湊さんは疲れた様子で帰って来た。
「お帰りなさい」
「ただいま。結羽…」
憔悴した湊さんは、私を抱きしめた。
「湊さん、お風呂湧いてますから」
「あぁ、ありがとう」
お風呂から上がって来た湊さんに、お水を渡すと、一気に飲み干した。
私は、髪を拭きながら、ソファに座る湊さんの横に腰掛けた。
「どうですか?」
「高山さんが情報を流したんだろう。誓約違反で訴えることも考えたけど、証拠が無い。親父も公にはしないつもりだ」
後から野木さんに聞いた話だと、高山さんは、将来社長夫人として、自分が湊さんの横に立つ、そう話してたらしい。
自分の絶対的な自信でアプローチしたけど、湊さんは振り向きもしなかった。
そして、自分より劣る私が彼女になった。
それに対しての、腹いせに違いない。
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