再会してからは、初恋の人の溺愛が止まりません
連れて行かれた先は、駅から近いカラオケだった。

誠稜の生徒が放課後よく利用しているらしい。

ヒトカラの趣味がない私は、そこに立ち寄るのは初めてだった。


「フリーで」


男の先輩は受付にいる二十代ほどの男性店員とやり取りをすませると、また私の腕を掴んでエレベーターに乗り込んだ。

三階に着いて、三○八号室の前に立ち止まると、ドアを開けて私を押し込んだ。


「あの……っ、どうして、こんなところに……」

「へえ、そうやってかよわい振りで男を落としたんだ」

「私、そんなことしてませんっ」


この人も私の噂を真に受けているの?


「またまた〜、何とぼけてんの? 笹山さんのせいで彼氏に振られたって言う女子が結構いるの知らないの?」


言っている意味が理解出来ずにいた。

五月に会った派手な他校の女の子だけじゃなかったんだ。

でも、関わりを持っていないから、心当たりが見当たらない。


「意味がわかりません……私、誰とも話してないから」

「笹山さん、それ本気で言ってんの?」


男の先輩は信じられないと言いたげに、瞠目した。


「事実を言ったまでです」

「冗談きっついって! ははっ」


どこにおかしい要素があったのか、分からない。

笑う男の先輩を呆然になって見つめていた。


「あー、わかった。自覚してない振りして男を惑わしてるんだ」


男の先輩はにやりと笑いながら、私を頭のてっぺんから足の先まで見つめていた。

その向けられた目付きに、嫌悪感を覚えずにはいられなかった。



早く解放してよ。

悠くんが待っているのに。


「……オレ、笹山さんみたいに男を惑わして手玉に取る子を、ねじ伏せて泣かせたくなるんだよね」


突然、彼は私を壁に押し付けた。
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