再会してからは、初恋の人の溺愛が止まりません

「文化祭の準備で全然会えなかったから、こうしてていい?」

「いいよ」


悠くんは私の背中に腕を回して、抱き締めてくれた。

遠距離恋愛でもないし、一週間一緒にゆっくり過ごせなかっただけで堪えていた。

今は無性に甘えていたい……。


「あのね、」


悠くんの胸に顔を埋めて、もじもじとためらってしまう。


「ん?」


悠くんが私に向ける眼差しは、穏やかで優しい。

私を安心させてくれるの。


「文化祭が終わったら一緒に────」


“私の家で過ごそう?”


悠くんに伝えたかったお誘いは、私の口から出ることはなかった。


「笹山さん、こんなところにいたんだぁっ」


桐谷さんに遮られてしまったから……。


私は咄嗟に悠くんから距離を置いた。

声のする方向へ視線を向けると、そこには桐谷さんと……さっき悠くんと話をしていた小柄な美人さんが並んで佇んでいた。

二人は姉妹か親戚のどちらかと思うほど、似通ってた。


「北川くん、この子、私の従妹なの」

「わたし、笹山さんと同じクラスの桐谷です」


花が咲くような笑みを浮かべて自己紹介する桐谷さん。

顔に出さないように心がけたけど、嫌な予感がして拳を作っている手は震えていた。
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