再会してからは、初恋の人の溺愛が止まりません
いつもの通学、通勤ラッシュで満員だけど、今日は運良くロングシートに二人分の空席があった。

あたしと彼はその席を無事にゲットした。

この快速列車に乗ると、あたしが通う百合ヶ丘(ゆりがおか)女学園は二駅、彼が通う菖蒲高校は三駅停まる。

ほんの少しだけ一緒にいられることが無性に嬉しくてくすぐったかった。


「キーホルダーありがとうございます。あの、あたしは笹山響と言います」

「俺は北川悠です。名前で呼んでもいい?」

「はい、お好きに呼んでくださいっ」

「じゃあ、響ちゃんでいい?」


響ちゃん、なんて同じ学校の子から何度も呼ばれているのに、どうして彼に呼ばれると胸が高鳴るんだろう。


「よろしく、です。ゆ、ゆた、……北川さん……」


共学に通っていればすんなり呼べたのかな。

緊張が勝って、下の名前を呼ぶことが出来なかった。

頬が熱くて、赤面症になってしまったみたい。

「それでもいいよ」


恥じらうあたしを、北川さんは穏やかな笑みを浮かべていた。

その笑みがあまりにも綺麗で、あたしの瞼に焼き付いて離れなかった。


──まもなく……。


取り留めのない話をしていると、あたしが降りる駅の到着を知らせるアナウンスが流れてきた。

あーあ、着いちゃった……。


「北川さん、あたしここでおりますね。さようなら」


あたしは一礼をして、名残惜しさを感じながら電車から降りた。

北川さんと離れるのが無性に寂しい。

この時あたしは、寂しさを覚えると同時に、北川さんに恋をしているのだとようやく自覚した。

初めて好きになった人はあたしより年上の高校生。北川さんから見たあたしは子どもでしかない。

あまりにも無謀な恋だった。

それでも一度自覚した恋心から目をそらすことが出来なくなってしまった。


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