再会してからは、初恋の人の溺愛が止まりません
悠くんがどんな表情をしているのか怖くて、花火が散った空から視線を動かすことが出来ない。


「それは本当?」


耳に届いた悠くんの声音は、いつものように穏やかで落ち着き払ったものだった。

本当なんだよ。

当時、環お姉さまと付き合っていたと知っても、諦められなくて、馬鹿みたいに悠くんだけを思い続けてきた。


「うん……今までごめんなさいっ」


私は小さく頷くと、すぐに悠くんの方へ体の向きを変えて深く頭を下げた。


「響……突然どうしたの? 顔をあげて」


頭上から悠くんの戸惑う声が聞こえる。


「私、悠くんに嘘をついていたの。ストーカー行為はなくなったのに、まだいるって……」

「ストーカーは諦めてくれたんだね。響に何もなくて良かったよ」


そこは怒るところだよ? 私は悠くんを騙したんだから。

いっそのこと、私を立ち上がれなくなるまで恨んで責めてよ。


「仮でも、悠くんの隣にいるのが心地よくて、もう少しこの関係を続けたかったの……でも、私聞いたの。この間、カフェに私も居合わせてて、好きな子に告白するって従姉妹さんに言っているのを聞いたの……だから、もう終わらせるね」


私は顔を上げて悠くんを見つめた。

これだけはちゃんと目を見て伝えなきゃ。


「ずっと悠くんの厚意に甘えてばかりで、ごめんね……? 今日は私のわがままを叶えてくれてありがとう。悠くんは好きな子の所へ行って? 私はまだここにいるから……」


これで、私の初恋はおしまい。

私は悠くんを置いて、拝殿の方へ目的もなく歩き始めた。

目の前の視界は涙のせいで歪みに歪んでいる。


「……っ、」


あやうく声をもらしてしまうところだった。

まだだめ。

悠くんがここからいなくなるまで声を出しちゃだめなんだから。

零れそうな嗚咽を零さないように、唇を噛み締めていた。

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