僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』

「ねぇ葵咲(きさき)ち(・)ゃ(・)ん(・)、それって……僕を……誘ってるの？」

　いつも心の中で呼んでいるまんま、「葵咲ちゃん」と呼びかけたら、子供の頃からの想いが一気に身体の中を突き抜けていくようで、ゾクッとした。

　なんていうんだろう、この背徳感に似た、甘い――快感。

「理人(りひと)……」

　そんな僕の耳元で葵咲ちゃんが囁くんだ。

「理人、お願いだから……もっと私を信じてよ？　私、理人が思ってるより、ずっとずっとアナタのこと、愛してるよ？　だから――」

　そこで僕の首筋に顔を埋めると、小さな声で懇願するように
「自分だけが想いを抱え込んだみたいな、そんな愛し方は……やめて？」

　そう続けられて。

　僕は彼女の言葉に思わず息を飲んだ。
　
「荷物のことにしてもそうだけど、もっともっと私を頼ってよ。私、理人が頑張りすぎて潰れてしまわないか……時々すごく不安になるの」

　――アナタが私を庇って、意識不明になったときを思い出しちゃう。

　葵咲ちゃんの喘ぐようなそのつぶやきに、僕は返すべき言葉を見つけられない。