僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
***

「日曜に行きたいのは前に話した和菓子屋の友達のところなんだけど」

 うちの母親と違って馬鹿なことは言わないはずだから、そこは安心していいよ?

 先の実家でのあれこれを思い出しながら溜め息まじりに告げたら、「えっと……真咲(まさき)さん、だっけ?」と声が返る。

「そうそう立花(たちばな)真咲(まさき)。『たちばな(あん)』の店主の」

 大学の方にも出入りしてるみたいだけど知ってる?と続けたら、葵咲(きさき)ちゃんが「茶道サークルのお友達から名前だけは聞いたことあるよ」と微笑んだ。

「そこに残ってる1本。真咲に買って来たやつなんだ。キミが旅立った日、たくさん話聞いてもらったからさ。一応、そのお礼……?」

 僕の中では本当は土産、今回は真咲だけでもよかったぐらいなんだ。

 実家にも買わなきゃダメよ、って葵咲ちゃんが言うから予定外に両親にも買ったけど。

「分かった。予定入れないようにしとくね。そこの和菓子、食べてみたいって思ってたし」

 ――和菓子を買うとなるとお抹茶も欲しいね。
 うっとりしたように微笑む葵咲ちゃんを見て、僕は彼女がお抹茶を立てる姿を想像して、ドキドキしてしまう。

 和装姿の葵咲ちゃん、いつぞやの温泉旅行の時の浴衣姿しか見たことないし、是非お披露目してもらいたいっ!

 着物を脱がすのって、洋装と違ってまた一興だよね。

 そんなことを想像して、ムラムラしてしまったのは内緒。

 葵咲ちゃんの成人式の振袖姿、不覚にも僕は見損ねているから。
 今度着てもらおうかな、とか思った。
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