僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
***

「ねぇ池本(いけもと)。確か午前中に来るって連絡してこなかった?」

 2人でシャワーを浴びて、身支度を整えて。結構急いで家を出たんだけどその時にはすでにあと数分で正午ってところで。

 当然着いたらお昼なんてとっくの昔に過ぎていた。

「あー、ほら、色々あったんだよっ。色々っ」

 言ったら、真咲(まさき)が恥ずかしそうに僕の後ろに隠れる葵咲(きさき)ちゃんを見て、「そうみたいだね」って嫌味なくらいいい笑顔でにっこり微笑んだ。

「いやらしい目で僕の彼女(フィアンセ)を見ないでくれる?」

 葵咲ちゃんを隠すように前に立ち塞がったら、彼女が僕の陰になっているのをいいことに、心底呆れた顔をされた。

「池本……キミはどういうつもりで恋人をここに連れてきたの?」

 ってそりゃそうだ。

「じっ、自慢しに来たに決まってる!……けど……ジロジロ見るのは禁止」

 言ったら、「面倒くさいな」って僕にしか聞こえないくらいの小声でグサっとくることを言ってくれる。

「丸山さん……だっけ? キミもいい人捕まえたよね。ほんと」

 含みを多分にはらんだ真咲の言葉に、僕は心臓がギュッと縮こまった。

 葵咲ちゃんが何て答えるのか知りたいような……知りたくないような……。

 無意識に彼女の指に絡めた手に力がこもる。
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