僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
「――はい。彼じゃないと私、ダメみたいです」
葵咲ちゃんは僕の指をギュッと握り返してくれると、そう言って真咲をじっと見つめ返した。
今まで恥ずかしそうに僕の背後に隠れていた女の子と同じ女性だなんて思えないぐらい、その横顔は凛としていて。
真咲がそんな葵咲ちゃんを見て、束の間息をのんだのが分かった。
「……やっぱお前、幸せ者だよ」
一瞬だけ隠すように視線を落とし、それからにっこり笑顔を向けてきた真崎を見て、僕は拍子抜けしたと同時に、何となく違和感を覚えてしまう。
そんな真崎を見ていたら、先日一緒に飲んだ時、彼が僕のことを“恵まれすぎている”と言ったことをふと思い出した。
僕はその空気をわざと断ち切るみたいに
「ほら、これ! この前迷惑かけたお詫びとお礼」
言って、真咲の前にグイッと獺祭の入った紙袋を突き出して、
「ついでに今から僕たち、お客さんだから。しっかり商売しろよ?」
真咲は僕から紙袋を受け取りながら、しかたないなというふうに笑って、「どうぞ」と店内に手を向けた。
その顔はすっかり和菓子屋の若店主の顔になっていて――。
僕はほんの少しホッとする。
僕に葵咲ちゃんがいてれるように、真咲にとってもそういう存在が出来たらいい。
ショーケースに並ぶ、色とりどりの繊細な練り切りや透き通ったゼリーなどを嬉しそうに見つめる葵咲ちゃんの横顔を見つめながら、僕はそんなことを願わずにはいられなかった。
僕は――真咲が言うように、葵咲ちゃんに出会えて最高に幸せだから。
End(2020/02/24-2020/05/19)
葵咲ちゃんは僕の指をギュッと握り返してくれると、そう言って真咲をじっと見つめ返した。
今まで恥ずかしそうに僕の背後に隠れていた女の子と同じ女性だなんて思えないぐらい、その横顔は凛としていて。
真咲がそんな葵咲ちゃんを見て、束の間息をのんだのが分かった。
「……やっぱお前、幸せ者だよ」
一瞬だけ隠すように視線を落とし、それからにっこり笑顔を向けてきた真崎を見て、僕は拍子抜けしたと同時に、何となく違和感を覚えてしまう。
そんな真崎を見ていたら、先日一緒に飲んだ時、彼が僕のことを“恵まれすぎている”と言ったことをふと思い出した。
僕はその空気をわざと断ち切るみたいに
「ほら、これ! この前迷惑かけたお詫びとお礼」
言って、真咲の前にグイッと獺祭の入った紙袋を突き出して、
「ついでに今から僕たち、お客さんだから。しっかり商売しろよ?」
真咲は僕から紙袋を受け取りながら、しかたないなというふうに笑って、「どうぞ」と店内に手を向けた。
その顔はすっかり和菓子屋の若店主の顔になっていて――。
僕はほんの少しホッとする。
僕に葵咲ちゃんがいてれるように、真咲にとってもそういう存在が出来たらいい。
ショーケースに並ぶ、色とりどりの繊細な練り切りや透き通ったゼリーなどを嬉しそうに見つめる葵咲ちゃんの横顔を見つめながら、僕はそんなことを願わずにはいられなかった。
僕は――真咲が言うように、葵咲ちゃんに出会えて最高に幸せだから。
End(2020/02/24-2020/05/19)